【特集記事】後世に残したいアニメ表現【デフレ】特集!!

ライター/ヶヶシ尺

序文


『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』第1話「ボーン・イン・レッド・ブラック」/「マシン・オブ・ヴェンジェンス」(公式配信)
©Ninj@ Entertainment/Ninj@ Conspiracy


インフェルノコップ「地獄の刑事はやってくる」 EPISODE 01″The Badge from Hell”(公式配信)
©Trigger/ CoMix Wave Films

『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』今秋放送の『SSSS.GRIDMAN』でも監督を務める、アニメーター・演出家の雨宮哲の代表作の一つである。この作品の独特な演出技法に魅了された視聴者も多いことだろう。本作で散見する一枚絵のスライドでキャラクターの動きを見せるシュールな作風は、同じく雨宮氏の監督作である『インフェルノコップ』でも、より顕著にみられる。

しかし、皆さんはこういったシュールな演出技法にルーツが存在するのをご存じだろうか?

それは決して、モンティパイソンのカットアウト・猫目小僧の紙人形劇・鷹の爪などのFLASHアニメでもない……

それは、『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』にも参加した演出家の博史池畠や、カプコンで現在ゲームプロデューサーを務める綾野智章をはじめとした大阪芸術大学 漫画・アニメーション研究会『グループCAS』のメンバーが制作した学生時代のシュールかつ、ゆるい作品群にある。(※注釈1)池畠氏の学生時代の代表作の一つ『マブ』シリーズを見れば、その演出技法に類似点があるのがお解りいただけるだろう。

『マブ』シリーズに代表される、シュールなアニメ作品群は、池畠氏が当時所属していた同じく大阪芸術大学のサークル『特撮・CG・アニメサークルSFA(大阪芸術大学SF研究会。通称S研)』の後輩達によって後継となる作品が制作されていく。

これらの作品は何時ごろからか『デフレアニメ(通称:デフレ)』と内輪で呼ばれるようになっていった。

次項よりその代表作を紹介していく。

『デフレ』代表作品紹介


『11世界最強破壊高校鉄拳餓狼グラップラー電鉄 マブ』(監督:博史池畠)


『マブ 第1話』(監督:博史池畠)


『マブ 第2話』(監督:博史池畠)


『宇宙建築時代』(監督:綾野智章)


『アライグマ古市』(監督:日下雄一朗)


『聖パンサー』(監督:日下雄一朗)


『別離』(監督:海瀬大)

※他、名作・迷作も続々アップ予定

解説

これらの動画を見て、面白いと思った方、意味が分からなかった方、不快だった方、(そもそも、このご時世にSDサイズの汚い動画を見ることに面食らう若い世代も多い事だろう)反応は様々だと思うが、この項では『デフレ』を理解する一助となるべく、無粋ながら解説をさせていただく。

まず、これらの作品群にはいくつかの共通項がある。
要素を大まかに4点にまとめて列挙すると

1.絵の独特さ
2.動きの省力化、雑さ
3.超展開、不可解な演出
4.ツッコミの不在

この4点を軸に順に解説していこう。

 

1.絵の独特さ


『マブ』より。主役の『マブ』。
指や関節の数などの決まりごとにとらわれない個性的な画風。毒々しい色彩感覚も特徴的。


『密林の王者 エヴォリューションファイト』より。
画面右、シルエットはキリンだが脇腹の部分に顔があり、頭と尾が手になっているという奇妙な生物。


『ドボランボールZ』より。
時には実写素材を加工したものがキャラクターとして用いられる場合がある。

『デフレ』アニメの絵は、絵自体が個性的な画風であったり、雑に作画されたものであったりする場合が多い。この点がシュールな世界観の構成に一役買っている。

 

2.動きの省力化、雑さ


『アライグマ古市』より。
物語は作者の日下氏の一人芝居と止め絵の連続にて表現されている。


『ドボランボールZ』より。
戦闘シーンはほぼすべて止め絵のスライドで表現される。


『釣りンダー サイゾー』より。
平面的な動きで構成されたルアー同士の戦闘。釣り竿と繋がっていなければいけないはずの糸の先が普通に切れているところもポイント。

『デフレ』アニメにおいてキャラクターは一枚の止め絵によって表現される場合が多い。キャラに動きがある場合に関しても基本的にキャラクターの動きは止め絵のスライドで表現される。止め絵スライドは『インフェルノコップ』『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』でも用いられている表現で、S研の自主制作『ファイティング!八漬くん』(実写作品、池畠氏は特技監督を担当)の必殺技シーンでも同じ表現がとられている。

 


『マブ』より。
アップサイズのマブ。線がジャギーを起こしてもお構いなしである。


『シェソムーⅢ』より。
主人公の耳の色のはみ出しや、右の空間に塗り段階のミスによる水色の丸が存在しているがそのまま素材として使用されている。

雑さ、という点では素材の使いまわしという要素も顕著にみられる。『デフレ』では、画像解像度を考慮せず、どのようなサイズであっても一つの素材を拡大縮小して使いまわすといった手法がとられている。そのためアップサイズでは異様に線が太くなったり、ものによってはジャギーが発生して妙にカクカクした線になっていたりする。素材作成時の塗り間違いやはみ出し、ブロックノイズなども放置されるのが通例で、その雑さが作品全体のチープ感を補強している。アップとロングで同じ素材を使いまわすという手法は『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』でも一部のカットで取り入れられている。

 


『ル パ ン』より。
一見するとル〇ン3世のように見えるが、一人芝居的な語りでどんどん設定が滅茶苦茶になっていく。

『デフレ』の世界観を説明する上では声の演技という点も外せない。基本的は、登場人物は兼役が多くキャストは1人ないし2人しかいないことが多い。またキャストに関しては専門の声優を設けず、制作者がそのまま声をあてている作品が大半である。基本的に、ストーリー展開も込みで、その場で行き当たりばったりで考えていると思しき部分が多く、このゆるさが『デフレ』の醍醐味ともいえる。

説明セリフが多い傾向にあるのも特徴の一つで、この点にも何とも言えない可笑しさがある。エコーやフェードアウトの効果を人力で行なう作品も多く、これも独特の“ゆるさ”に拍車をかけている。シュール感あふれる絵に一人芝居的に声をあてていく手法は、松本人志の『一人ごっつ』にある『紙猫芝居』とも似た部分があるかもしれない。

 

3.超展開、不可解な演出

『デフレ』の特徴としてストーリー展開の飛躍が激しいという点が挙げられる。所謂 超展開である。ストーリーが無駄に壮大になっていく割にオチがしょうもなかったり、延々と脈絡のない展開が続いた後で唐突にオチが入ったり、といったものも多い。


『ピーポ2』より。
『ピーポ2』に登場するマブのセリフは3つだが、何故か同じものが使いまわされている。

     

『マブ』より。
マブの父が砕け散るシーン。糖尿病により後5秒の命だったはずのマブの父だが、砕け散る寸前で元に戻るという行為を何度も何度もしつこく繰り返す。

演出面でも非常に不可解な点が多い。いくつかの作品でみられる繰り返しの多用はその代表的な特徴の一つである。

上記のマブの父が砕けるシーンの効果音は何故かガラスが割れる音である。このような不可解であったり大げさであったりする効果音の使い方も『デフレ』にみられる特徴である。BGMの使い方に関してもある程度パターンが見られる。2000年代中盤の作品(『聖パンサー』『ル パ ン』『アライグマ古市』)などでは、オチに派手なBGMを持ってきて、内容がどうであれとりあえず“終わった”という感じを出すという手法が用いられているように思え、その無理矢理感になんとも言えぬ味わいがある。

 

4.ツッコミの不在

『デフレ』の大きな特徴にツッコミ役の不在がある。前述のとおり、『デフレ』には非常にツッコミどころが多いが、ツッコミ役が基本的に不在であるため、シュールな展開は終わりまで延々と続いていく。シュールでゆるい傾向の笑いが好きな方であれば、充分にその世界観に没入できる構造であるし、視聴者の側がツッコミを入れることによって、笑いが生まれるという構造が成立するとも言えるかもしれない。

 

まとめ

『デフレアニメ』という名称の由来には判然としない部分が多いが、当時、京都アニメーション制作の『涼宮ハルヒの憂鬱』などに代表されるアニメのクオリティの「インフレーション」が叫ばれて激しかった時期に、それに対するカウンターとしてのクオリティの「デフレーション」を起こしたアニメというのが命名の由来だという理由を内輪で伝え聞いたことがある。

前述の雨宮氏の監督作『インフェルノコップ』のWEBサイトの「STORY」欄にこんな一節がある。

“西暦2012年。飽和し、行き詰まりを見せ始めたアニメーションコンテンツを、再び”アニメ本来のあるべき姿”へと導くため、地獄の刑事がやってくる…”

穿った見方かもしれないが、未だにクオリティのインフレを続け飽和状態となった現代のアニメーションへのカウンターという思想的な意味合いにおいても、共通のルーツを持つ『デフレ』と『インフェルノコップ』には似た部分があるのかもしれない。

(ヶヶシ尺)
twitter:https://twitter.com/Numidameleagris

 

(※注釈1)グループCASと雨宮氏の関係

池畠氏が学生時代に出入りしていたサークルに、大阪芸術大学のアニメーション研究会『グループCAS』がある。
参考:『アオイホノオ』から20年後の大阪芸大生は今?『ロボットガールズZ』監督・博史池畠インタビュー

雨宮氏は学生時代からの『グループCAS』のファンであり(※雨宮氏自身は東京工科大出身)、学生時代にもCAS作品の『超無敵メカ ピーポくん』(※アニメーター佐藤利幸の自主制作)からの影響を感じさせるアニメ『ダイナちゃん』を監督している。

アニメージュ2015年12月号のインタビューにおいて、雨宮氏はグループCASについてこうコメントしている。

――大阪芸術大学のアニメ研の影響を受けたそうだけど、雨宮さんが大阪芸大にいたわけではないんですよね。

雨宮 「僕は東京工科大学に通っていて、大阪芸大のアニ研(漫画・アニメーション研究会グループCAS)に憧れていたんです。そのサークルは凄くいいものばかり作っていて、僕が受けた影響は計り知れないです」

――そのサークルでは、後にプロで一緒に仕事をする池畠博史さんも作品を作っていたんですね。

雨宮 「池畠さんも作ってましたね。自主制作の作品にも、きちんと作画しているものはあるんですが、池畠さんのはそうではなくて「これはなんなの?」と思うようなもので。面白いんですけど、商業ベースに乗らないようなアニメを作っていました。あの頃はアニメを観るのも作るのも、本当に楽しかったですね」

出典:発行・徳間書店 月刊アニメージュ2015年12月号 P110~113 この人に話を聞きたい【第百八十二回】

対して池畠氏は、自作と『インフェルノコップ』『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』の類似性についてこうコメントしている。

質問 「雨宮さん監督のインフェルノコップや池畠さんも制作に参加された「ニンジャスレイヤーフロムアニメイシヨン」は、演出が、「マヴ」や「モナイザーチャンス」等の池畠さんの自主制作作品と酷似していますがこれには何か理由があるのでしょうか?」

 池畠 「 僕らの自主制作を見てくれてたことが雨宮さんと知り合った直接のキッカケですし、確かに影響はあるのでしょうですけど商業アニメであれをやる勇気は私にはなかった そのパンクロックな姿勢は本当に凄いです」

池畠氏の自身のPeing – 質問箱 -の回答において

 

ちなみに

『特撮・CG・アニメサークルSFA』に所属し博史池畠の後輩でもある川尻将由の監督作『ある日本の絵描き少年』にもマブがカメオ出演している。スターシステム(素材の使いまわし)もまた『デフレ』の特徴でありその血を受け継いだ作品が、ぴあフィルムフェステイバルにて準グランプリ等、数々の名誉ある賞を受賞しているのだ。

主人公・シンジと麻雀をしているマブ